大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1266号 判決

そこで、右の事実関係の下で被控訴人が本件弁済が否認され得ない理由として主張するところは、要するに、被控訴人・公庫・破産者の三者間で本件代理受領特約を締結したことにより、被控訴人は破産者の本件公庫融資金に対し物的担保権に準ずる権利を取得したものであり、そして右は被控訴人の取引業界において慣行として定着したものであるというものの如くである。

なるほど、右三者間における公庫融資金の代理受領特約は、本件に則していえば、公庫が右特約に反し融資金を代理受領の委任者である破産者に直接交付したような場合、被控訴人は公庫に対し代理受領によって得られる利益を正当の理由なく侵害されたことを理由に不法行為による損害賠償の請求が可能である(最高裁三小判決昭和四四年三月四日民集二三巻五六一頁参照)という意味で担保的機能を果していることは確かである。しかしながら、右特約は三者間の債権的合意にすぎず、これによって与えられた被控訴人の代理受領権限は明文の根拠がない以上破産者の公庫に対する融資金請求権についての債権質又は公庫の承諾を経た指名債権譲渡等と同等の担保的機能を有するものと解することはできないのである。又、被控訴人の取引業界において事実たる慣習としてこのような意味における担保的機能が定着したと認め得る証拠はない。従って、被控訴人は本件売買代金債権について他の一般債権者との関係においてなんら優先的地位を有するものではないというべきである。

なお、被控訴人は、破産者との本件物件の売買契約の履行について、本件物件の引渡及び破産者名義への所有権移転登記並びに公庫に抵当権設定登記を先履行した代償として前記代理受領権限を取得した点を根拠に物的担保権者に準ずる地位が認められるべきであると主張している。しかしながら、被控訴人が右先履行に応じたのは、公的機関である公庫の融資金を利用する者を買主としてこれとの間に契約を締結することにより、売買代金を確実に回収できる利点を考慮したからに外ならないものと解され得るのである。のみならず、公団は右融資金の貸付承認に当たり、団地住宅購入資金貸付業務取扱規程(以下「規程」という。特に第二四条ないし第二九条)により貸付予定者の資格につき融資金の返済能力の有無を厳しく審査することが当然予定されているところであるから、売主としての被控訴人側としては、公団から貸付承認を与えられた者を買主とする限りそのこと自体によっても売買代金の回収が担保されているともいえるのである。従って、被控訴人の側に本件契約上前記のような先履行義務があるといっても右に述べた公庫の融資金貸付制度の裏付があることによるものであるといえるのであるから、先履行の代償はそれで十分であって、更に被控訴人の主張するような物的担保権に準ずる権利までも有すると解するのは相当ではないというべきである。之を要するに、双務契約の当事者の一方が同時履行の関係にある自己の債務を特に先履行する場合には、相手方の債務の履行を確保するためなんらかの方策を講ずる必要がある訳であるが、具体的状況の下に諸般の事情を考慮してどのような法律的効果を有する手段を採るかは右当事者の自由であると同時にその結果もまた甘受すべきなのである。

(武藤 菅本 山下)

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